DO-MANNAKA de Alternative

走るポップ・リスナー、その魂のゆくゑ

my private best album 2014

 今年は5,000mで自己ベストが出せました。秋口に体調を崩しうまく走れない日々が続きましたが、どうにか11月の駅伝には間に合わせることが出来ました。そして今は人生初のフルマラソン練習の真っ最中です。
 そんな『走るポップ・リスナー』が書く、2014のベストアルバム10枚です。選考基準はズバリ、長距離走を含む自分の生活にどの程度プラスになったか、です。きっとあなたの暮らしにもプラスになる、そんな10枚です。


1. Cloud Nothings - Here And Nowhere Else

Here & Nowhere Else

Here & Nowhere Else

 前作『Attack On Memory』で過去に落とし前をつけたディラン・バルディ君が次に向き合ったのは《いま、ここ》。今回はギタリストなしの最小編成、スティーブ・アルビニという強力な後ろ盾もなしで、裸一貫のオルタナ真っ向勝負を挑んでいます。冷徹な表情を浮かべながらも、エモーショナルな熱気あふれる演奏で《いま、ここ》に向かい合うその姿勢は、長距離ランナーの姿にも近いものがあります。苦しくても長い道のりに一人で立ち向かわなくてはならないとき、最も大きな力になってくれた一枚です。依って、今年のベストアルバム。


2. Bombay Bicycle Club - So Long, See You Tomorrow

So Long See You Tomorrow

So Long See You Tomorrow

 長距離走の練習というものはとても単調です。ルーティンです。「また今日もジョグかあ・・・。」と思ったりすることはしょっちゅうです。しかし、そのめぐりめぐる日常を最高のポップに変えてくれたのがボンベイ・バイシクル・クラブ。今作はループ・サウンドを多用しながら、そこから発生する微妙な変化や多国籍サウンドとの結合によって「巡り巡る日常に起こる、ユニークな事態」を音で表現することに成功しています。ありきたりで貧相な日常にも、実はしあわせの青い鳥が潜んでいる…というのは童話の話ですが、それは私の日常にもあることかもしれない、というか、少しずつ存在を実感しているところです。


3. Aphex Twin - Syro

Syro

Syro

 「我が道を往く」。書くのは簡単ですが、実際にやるのは容易ではありません。しかも、その成果はまったく誰にも評価されない可能性だってある。まさに茨の道です。しかし、その茨の道をビッグフットでズシンズシンと踏み潰していったのがこのエイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムス。昨今のエレクトリック・ミュージックの潮流とは完全に外れ切ったテクノ・アルバムでありながら、飛び出してくる一音一音が圧倒的な説得力を持って迫ってくる。さすが、13年間にも渡って自己の音を追及し続けただけのことはあります。私も短絡的にならず、じっくりと「我が道」を追求してみよう、と思わされた一枚です。


4. Royal Blood - Royal Blood

Royal Blood

Royal Blood

 LP盤を海外直送の通販で買って、ターンテーブルに載せて「Out Of The Black」のイントロを聴いた瞬間に「きたきたきた~!!!」と思いました。適度な"スキ"と"タメ"が作る猛烈なロックンロールの熱量、これこそヒトの血液を沸騰させる音楽です。そしてそのテンションが1枚通してダレないのも素晴らしい。本当に新人バンドのデビューアルバム?信じられません。最高。2人組というミニマルな編成だからこそ、この緊張感と熱量が生まれるんでしょうね。こういう血を沸き立たせるような表現、私もいつかは出来たらいいな~。


5. FKA Twigs - LP1

LP1

LP1

 全く新しい心の震わせ方。変則的なリズム、スキの多いビート、囁くようなボーカル、それでいてド直球に心の底をえぐってくる…これはいったい、何なんだ?聴いた当初は不思議でしょうがない音楽でした。だんだんとレビューやインタビューを読んだり、そしてプロデューサー役のArcaの音楽を聴いたりするうちにだんだんと理解できてきましたが、それにしても新人かつ私より年下のアーティストがこういう熟成された音楽を鳴らしていることについてはまだ驚きが続いています。去年のLordeのアルバムにも驚かされましたが、いまの若い女性アーティストの才能ってすごい。男子もがんばろ。


6. Roth Bart Baron - The Ice Age

ロットバルトバロンの氷河期(ROTH BART BARON'S

ロットバルトバロンの氷河期(ROTH BART BARON'S "The Ice Age") [Analog]

 “もしも違う世界に生まれたら、僕らはどうなっていただろう?”最近だとceroがそれを楽曲の中でストーリー立てて描写していますが、よりじっくりと、より主体的に描いているのがこのロット・バルト・バロン。雄大で穏やかな音像の中に、苛立ちや焦りを含ませたリリックは、異世界と現実世界のよい橋渡しになってくれました。実は今年聴いたアルバムの中で最もエモーショナルなアルバムはこれかもしれません。その異世界までも貫通する情熱に突き動かされた部分は、確かにあります。


7. Mac DeMarco - Salad Days

Salad Days

Salad Days

 カナダの変態王子、マック・デマルコの3作目でマルコ。全裸弾き語り動画をFacebookにアップしたりと、本当どうしようもない人なんでありマルコが、それでいて良いレイドバック感溢れる美しい音楽を生み出してくれる人なのでありマルコ。思えば私も、長距離走やってなければ本当どうしようもない人になっていたかもしれないマルコ。そういう点で、なんか共感を覚えてしまう一枚でありマルコ。


8. Beck - Morning Phase

Morning Phase

Morning Phase

 朝、早起きするのが苦手です。理想は夕方くらいに起きて夜の仕事して小鳥のさえずりも鳴りやんだ頃に眠る生活なのですが、今は残念ながらそういう生活じゃないし、長距離走的にもそれじゃあ午前中のレースとか対応できません。まあこういう生活を選んてしまった自分が悪いですよね…。ところで、今年はフルマラソン練習の一環として朝練習を導入しました。前述のとおり早起きは苦手なのですが、頑張って朝5時とかに起きてみてます。その光景になんとなく存在するフィーリングとエモーションが、すなわちこのアルバムです。


9. Ogre You Asshole - ペーパークラフト

 私は長距離走を一回やめたことがあり、そのとき感じた「虚無感」からもう一度やり直そう、と思い直して現在に至っています。そしてこの『ペーパークラフト』。舞台は指でつつけばすぐ倒れてしまうハリボテの街、ラストトラックのタイトルはずばり「誰もいない」。虚無です。完全に虚無です。しかし、ミニマルでアブストラクトな音像から浮かび上がってくる掴めそうで掴めない何か、そしてループして『homely』に戻っていく終わり方など、虚無の中に可能性が見いだせる一枚でもあります。実はすっからかんな状態であるほど、ヒトは何かを手に入れやすい状態であるのかもしれません。


10. St.Vincent - St.Vincent

St. Vincent

St. Vincent

 今年ようやく『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読みました。そこに出てくるアンドロイドたちどれも才知に溢れていて、正直、生身の人間より魅力的な登場人物たちでした。St.Vincentことアニー・クラーク嬢もそんな"アンドロイド的魅力"があって、才知がありながらもどこか血が通っていないような(色白ですしね)、そんな不思議な印象を受ける方です。本作もアイデア豊かだし、跳ねまわるエレクトロサウンドから伸びやかなシンフォニーまで幅広い音を聴かせてくれるのですが、どうも人間ぽくない異質な感じがする。結果的にはそれがポップでありながらもオルタナティブな感覚に繋がって、「ああ、これも音楽シーンのド真ん中で他人と違うことをやる一つの方法なんだな」と思わせてくれました。