DO-MANNAKA de Alternative

走るポップ・リスナー、その魂のゆくゑ

cero "POLY LIFE MULTI SOUL tour" @Zepp Divercity

ceroの歴史的傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』のリリースツアー、そのファイナルとなったZepp Divercity2日目に行きました。

今ツアー、これまで各地で反響は呼んでいたものの、地域によっては小さいライブハウスでもチケットが売り切れないなど、変拍子や奇抜な曲構成を多用したアルバムの音についていけなかった人もそれなりにいたように感じます。そんな中迎えたファイナル公演、一体どんな雰囲気のライブになるのか?新アルバムの曲は、フロアにどれだけ馴染んでいるのか?ドキドキしながら、開演を待ちます。

Frank Ocean「Moon River」が流れ始め、メンバーがぽつぽつと登場。Frank Oceanの雰囲気から引き込むように、高城さんが音を絡ませて「Modern Steps」…すなわち、今回のアルバム・ツアーのイントロへ。
ここでFrank Oceanを使うあたり、同時代性が感じられました。別にceroだけが奇抜なことをやっているわけではなく、世界を見渡せば新しい音を求めるフロントランナーはたくさんいる。ここでceroのやっていることが天邪鬼でも珍奇でもないことが早くも実感できました。

角銅さんの叩くコンガを合図に、「魚の骨 鳥の羽根」へ。本格的なスタート、多くのお客さんは自由に7拍子(あるいは4拍子+3拍子)を乗りこなして、楽しそうに踊ります。この自由なノリ、随分と浸透したなあ…!としみじみ感じながら、私も右足は1/7で、左足は4/4+3/3でリズムを取りながら楽しみました。

この後は『POLY LIFE MULTI SOUL』の楽曲に前作『Obscure Ride』の楽曲を織り交ぜながら進行していきます。「Summer Soul」や「Elephant Ghost」では各個人の見せ場も用意されていて、今だから出来る、いや今しか出来ない旧曲になっていました。特に「Summer Soul」での光永さんvs.角銅さんのドラム・パーカス対決はなかなかエキサイティングでした。

新作の曲は、自分も家ではノリノリで(苦笑)聴いていたのですが、ライブでもそのノリを持ち込めるのか?は疑問でした。みんなパタリと動きを止めてしまうのでは?と…。
結論としては、そんな心配は杞憂でした。フロアのノリが良かったこともあるのですが、ライブになると音の立体感が増して、それが更にお客さんの身体を動かしていく。
特に良かったのは、「溯行」と「Buzzle Bee Ride」。「溯行」は決して盛り上がるタイプの曲ではないのですが、古川麦さんの弾くスパニッシュ風味のギターが魚が川面を跳ねるような躍動感を生んで心地よかったです。一方の「Buzzle Bee Ride」は絶対盛り上がるだろうとは思っていたものの、サビに向かってグイグイぶち上がっていく演奏のテンションにやられました。お客さんの反応も良く、曲終わり後の拍手喝采が凄かったです。

終盤は「TWNKL」「Waters」、そして今ツアー初めての1stからの楽曲「大停電の夜に」でまろやかな時間が流れます。この辺りの曲が、新作でテーマにしていた「川の流れ」を最も感じたような気がします。「Waters」に至っては、フロアのお客さんの間に水が流れてほうぼうに分かれていく、そんなイメージさえ感じられました。

本編ラストは人力ハウス「Poly Life Multi Soul」。アンコール後のExtendedバージョンと合わせると、どのくらいの時間踊っていたのでしょう?その時間の超越感と人の流れが合わさって、踊りながら頭の中では無限に広がる人物相関図というか、家系図というか、そんなものがバーっと浮かんでいました。
その後は「街の報せ」、さらにダブルアンコールで「さん!」を演奏して大団円。素晴らしいフィニッシュでした。

終盤、高城さんは「ありがとう!」を連発していましたが、それだけ感謝の気持ちが強いのも『POLY LIFE MULTI SOUL』がまさに人の生き方そのものを扱っていて、一緒に作ってくれた人や聴いてくれた人がいないと成立しない作品だったからだと思います。ツアーもまた然り。たくさんの人を巻き込んでグルーヴが広まっていったことで、"LIFE"を掲げた音にふさわしいライブになっていたと感じました。
そして、多様化している人生を音にする以上、それは複雑にならざるを得ない。それでもたくさんの人に聴かれる楽曲たちを作ってくれたceroはやはりすごいと思いますし、これから『POLY LIFE MULTI SOUL』というハコを飛び出してさまざまな場面で演奏される楽曲たちが、更にどう進化していくか(今日のセットリストでもアルバムの曲順から少し入れ替えるなどの変化がみられました)。わたしたちの社会とともに進化する、ceroの音の歩みをこれからも追っていきたいと思います。