電気グルーヴ『人間と動物』
- アーティスト: 電気グルーヴ
- 出版社/メーカー: KRE
- 発売日: 2013/02/27
- メディア: CD
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世はEDM全盛期。その中で、もはや古い概念となりつつある「テクノ」の日本代表である電気グルーヴが4年ぶりのアルバムをリリース。果たして内容はどうなのか?...とても気になっていましたが、結果的にこれがかなりの良作。「電気グルーヴ、流石!」とひと安心したのと同時に、改めて電気グルーヴという存在の面白さに気づくきっかけの一枚になりました。
聴く前は、いつも大ネタ小ネタを大量に挟みつつもなんやかんやで海外のサウンドを意識してプロダクションを行う卓球さんだけに、がっつりブロステップ並のエレクトロサウンドで攻めてくるものと思っていました。
しかし、1曲目「The Big Shirts」の入りはいきなりカッティングギター。どちらかと言えばDJのサウンドというよりバンドのサウンドです(歌詞にも「バンド」という単語がたくさん出てきます)。シンセ音も入ってきますが、一聴しただけで古臭っ!と思う80'sサウンドで、現代感は完全にゼロ。これ、大丈夫?と最初は思ったのですが、そこから「Missing Beatz」「Shameful」と質の高いシングル曲が続くので、この3曲で上手いこと「電気ワールド」に誘導してくれます。
※「Shameful」のMVは傑作。私も勤務先の体育館で似たようなことやってみたいです(無理でしょうけど・・・)。
続くアルバム曲「P」「Slow Motion」「Prof. Radio」は、歌モノかつBPMは125で統一という制約項目が多い構成にも関わらず、曲の表情はとても多彩。このへんは卓球さんのキャリアがモノを言っているような気がします。
そして4年前のシングル曲である「Upside Down」。アルバムヴァージョンでは音のパーツやエコーが若干削られたおかげで、特徴的なストリングス・サウンドが更に前面に出てきています。このストリングス音、かなり気持ち良いです。このアルバムにハマった要因のひとつに、このストリングス音があると言っても過言じゃないです。
※「Upside Down」シングルヴァージョンはこちら。私は断然アルバムヴァージョンのほうが好きです!
最後2曲では、電グルらしいおふざけの姿勢が垣間見られます。8曲目「Oyster(私は牡蠣になりたい)」。もうタイトルからしてふざけてらっしゃいますね。曲も壮大なシンセ音とペコポンペコポン鳴る電子音のミスマッチがたまりません。ラストは何故かSex Pistolsの電気流カヴァー「電気グルーヴのSteppin' Stone」。何故今ここでピストルズなのでしょう?さっぱり分からぬまま、アルバム終了。
この1枚をまとめると、いたって簡素、意外とメロウ、でもやっぱり電気グルーヴらしい楽しみ方は忘れてない、といったところでしょうか。
「簡素」というのは全9曲約45分という長さもあるのですが、BPMの統一と、「アゲ」と「サゲ」が頻発しない曲構成が大きな要因になってます。最近の海外のEDMアーティストの作品を聴いていると、爆発力凄ぇー!と感心はするのですが、しょっちゅう爆発してるので続けて4、50分聴いていると疲れてしまうんです。それと比べると今回の『人間と動物』はすんなり入り込んできて、すぐに繰り返し聴けます。その分電気らしいアクの強さは少ないかな、とも思いますがそういうときは過去作(『ORANGE』や『VOXXX』とか)を1回聴いてまた戻ってくれば良い。そういう聴き方も十分可能なアルバムです。
「メロウ」については上記で「80's」「歌モノ」といったキーワードを出しましたが、それらのイメージの通りです。あとは何と言っても「Upside Down」のストリングス。このへんの音感覚は、日本人じゃないと出てきづらいと思います。
最後に「電気グルーブらしい楽しみ方」。これは完全にラスト2曲のことを指しています。で、このラスト2曲の面白さについては「なんでこうなったのかサッパリ分からない、でもなんか面白い。なんでだろう?」という疑問が湧き出る面白さなんです。ゆえに、その思考を読み解くために過去作に当たってみたくなる、というトラップが仕掛けられているのです!・・・などと考えるのは私だけかもしれませんが、前述のとおり過去作と一緒に噛み砕くとより一層面白くなるアルバムであることは間違いないです。
やっぱり優れた日本のテクノ・クリエイター、電気グルーヴ。全国ツアーも終わってしまったあとにこんなレコメンドをしていますが、是非若い人にも電グル聴いてもらいたいです。卓球さんも瀧さんも45歳ですが、今世界中の若者に大ウケのデイヴィッド・ゲッタだって45歳ですからね。まだまだイケるはず!